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プロがプロに聞く経営の話
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 5億1千万、18秒の決断と効果
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Guest   朝日ソーラー社長 林 武志
Host オンキヨー会長 大朏直人


大朏 ちょっと古い話で恐縮だけど、昨年の10月の広島アジア大会、(ゼッケンの広告)拝見しました。とにかく、僕の知っている人はみんな、あれを見てびっくりしてましたよ。参考のために教えていただきたいんだけど、どれぐらいの金額だったんですか。 朝日ソーラー社長 林武志
5億1千万円です。ゼッケン協賛と番組協賛で。正味ですよ。
大朏 それは、朝日ソーラーさんだからですか。つまり、ふだんからのお付き合いがあるからで、ほかの企業だったら10億円とか…。
ゼッケン協賛が3億だったんです。それを1千万まけてもらいました。それとTBS系の番組協賛が3億。これもまあ、サービスで2億2千万でっていうことで、合計5億1千万円。これから払うんですけど(笑)。
大朏 ツケがくるわけだね(笑)。
3億円でこういうゼッケン協賛の話がありますって、電通が来たんですね。ウラを言えば、最初は5億だったそうです。それがどこの企業にも断わられて、4億でもまだ乗らなかった。それで3億になった時、電通の成田社長が、こんなことでいつまでもめてるんだって…。10月2日が開会式だというのに、それが8月中旬でした。
大朏 そんなにギリギリだったんですか。それで、どれぐらいで決めたの。
8月半ばの日曜日に電通の人が来たんです。その時、僕が聞いたのは、金は今、支払うんかって。そうしたら、社長にまかせるって言う。それで何競技かって聞いたら15競技ですって言いました。NHKの放送やな。そうですって。マラソンは男女、どっちがNHKか。女子です。よしわかった。やろう。大体18秒ぐらいで決めました。
大朏 役員会にも通さずにね。それはオーナー社長で非上場会社の社長の特権だよ。
うちはこの4、5年、別府大分マラソンを続けているんです。あの時は、僕の方から絶対ゼッケンをとってくれって言って、一連の動きをずっと見てたんです。ニュース、夜11時のスポーツ番組、それと日曜だからNHKのサンデースポーツ、全部報道されるんですね。それから翌朝、スポーツ紙はもちろん、朝日、読売、毎日、日経にも全部、ゼッケンの朝日ソーラーの文字が写ってる。それで、ああ、こういう効果があるんか、と思いました。たとえば僕が上場企業や歴史のある会社の幹部の方たちに会うと必ず、いやぁ、すごいねって言われる。それは別大マラソンのことなんです。それで今回アジア大会に協賛して、僕はこれで半年、会社の寿命が延びたと思ってます。


■ 創業社長の細やかさ、気配り

大朏 大会中は、かなり競技を見たんでしょうね。
ええ、それはもう、15競技全部。というのは、僕は会社をつくって12年間、いろいろありましたけれども、なんとか右肩上がりできました。ですから林武志のやり方に、神話めいた…といったら語弊がありますけども、社長のやることは正しいっていうことを、少しは社員に植えつけてきたつもりなんです。だから今回の僕のプレッシャーは何かといったら、朝日ソーラーの文字の露出だったんです。電通にも、やかましく言いました。 15競技の中で、水泳だけ、体につけられなくて、サッカーみたいにチャラチャラ動く旗みたいなものなんですね。ずっと見てたら、決勝戦の時に、朝日ソーラーの文字がなかったんです。すぐ電話とって、連絡させました。「なぜか」って。「15競技だ」と。絶対、朝日ソーラーの文字がテレビ画面に出る、そういう約束のもとに金を出した。競技の都合で無理だったら、前もって言ってくれ、と。僕は、5億1千万はそれだけの重みがあると思うんです。
大朏 そりゃあそうですよ。
僕が独断で決めたことなんで、責任持たなければいかん。だからそのことだけは、シビアに見たんです。そうしたら、広島の人、うちの社員でも電通の人でもない人が、「社長、電通にクレームつけたんでしょ」って。僕のクレームが回り回って、いろんな人に知れたんでしょう。びっくりしました。
大朏 林って男の性格を知ってるんだね。それにきちっと画面を見てるんだ。
数年前に、大分の空港で東北大学の西澤潤一先生にお会いしたんです。あの、ノーベル賞候補にもなられた…。面識はなかったんですよ。でも僕、名刺を出したんです。そうしたら、「ああ、広島アジア大会、ご立派でしたね」っておっしゃるんです。
大朏 5億1千万、安かった…。やっぱり、それだけ真剣なんだね。気前がいいだけじゃない。こう言ったらなんだけど、大会社のやとわれ社長にはない感覚ですね。社員はみんな暑い中、寒い中、苦労して売って歩いてる。そういう人たちの汗で成り立ってる会社だから、彼らの前でいいかげんな金の使い方はできないっていう、責任だよね。
実はもうひとつ、つけたクレームがあるんです。男子マラソンで、韓国の黄選手が優勝しました。これは僕が前々から言ってたことなんですが、たぶん黄が優勝するだろう、彼は背が低いから、大会の人にゴールのリボンを低めに、1メートルぐらいにしてくれって言っておいてくれって、絶対頼むよって。157センチぐらいなんです。別大マラソンで、黄と森下がデッドヒートやって、その時は森下が優勝して黄は2位でした。そうしたら案の定、アジア大会では黄が優勝して、ゴールリボンで朝日ソーラーが隠れてしまった。もう頭にきてしもうてから、あれだけ言うたのにって。関係者にやかましくいいました。
大朏 これだけの細かさなんだよね。やっぱり、創業社長っていうのはみんな、豪放磊落のようだけど、きめ細かい。神経質なんだ。気配りがあるよ。ゴールリボンのことだって、気配りのひとつなんだよね。そういう気配りのない人は必ず失敗してるね。
みんな気が小さいですよ(笑)。


■ かつて自分がほしがった援護射撃を

大朏 オンキヨー会長 大朏直人うち(オンキヨー)も、おかげさまでなんとか連結決算でも黒字になったんですよ。その間に、何十年ぶりかだそうだけど、ちょこっとしたテレビコマーシャルをやれて、よかったと思ってるんですよ。あれは社員に効果があるねぇ。うちも本気でやり出したっていう。林さんも、頑張れ頑張れって肩なんか叩いてるより、テレビコマーシャルやった方がいいって思ってるんでしよう(笑)。社内的な影響についてはどうでしたか。
自分のところは、12年、常に新規のお客さんを求めて行く商売なんです。僕は叩き上げでそういう厳しい商売をやってきましたので、こういうことが援護射撃であったら助かったなあっていう、そういう気持で。
大朏 なるほど。訪問されたお客さんにしたって、全然知らない会社よりは歓迎してくれる。よく宣伝してるけど、町に行ってもカタログはないけれど、セールスマンが来たから、一体どういうものなんだかってね。夜、「お父さん、今日、テレビでやってる、ほら、これこれ、カタログもらった」って、話してるに違いない。林さんがそういう計算をしないわけはないと思ってた。
それと、うちの社員は大企業に勤めた経験のある者がほとんどいないんです。いつも日の当たる場所じやなくて2番手、3番手のところできた者が多いので、たとえばアジア大会のゼッケンがとれたということは、そのことを超えた意味があるんです。
大朏 うちの会社も一流なんだ、と。
ええ。アジア大会の場合は、トヨタでもキヤノンでもサントリーでも、アサヒビールでもなくてうちだったことが、社員に与えた影響は大きかったかもしれないと思います。
大朏 それが一番だろうと思う。林さんが1人で売って歩いている時、テレビコマーシャルのひとつもあれば、もっと売りやすかった。または設立して1、2年の間に入った人たちにとっても、その頃、今のような宣伝してくれていたら、もっと売りやすかった。昨日、今日入社した人たちが、けっこう勢いよく成績よく売ったとしても、そういう先輩たちの苦労から見たら、今の10台は先輩たちの百台にも価すると思う。そうして先輩たちが努力してきた結果、テレビコマーシャルも出せる利益を得た、ということだと思うね。
僕は営業している時、詐欺だって言われたことがあるんです。会社を興してすぐの頃です。最後の詰めの段階になって、取り付けもしていない。奥さんが出てきて、「だってお父さん、朝日ソーラーなんて見たことも聞いたこともない」。昨日作ったから。会社を。それと、「朝日です」と言ったら、「あ、おいくら?」って言って、奥さんが台所から財布を持ってくるんです。
大朏 朝日新聞の集金人と間違えて(笑)。
その時にはカタログもパンフレットもなかった。だからある同業者のを使って、社名を消して朝日ソーラーにした。値段もひとつひとつ打った。そして前に勤めていた会社の名刺に線を引いて社名と電話番号を書き直した。成功するモトをとるために、今はこういう名刺ですみませんって。そういう思いを、社員にさせたくないんです。


■ 契約がない中国、信心深いインド

大朏 アジア大会の協賛も、将来の海外進出を考えてやられたことだろうし、実際に今度、韓国にも販売店を出されると聞いたけど、海外進出につてはどうお考えですか。うちではね、昨年3月、4月に中国とフィリピン、それからインドのマドラスに、販売店と工場を造ろうと思ってるんですよ。
オンキヨーで、ですか。
大朏 オンキヨーとしてね。とにかく、インドはまったくインフラができてない。そのかわり、あの日光…。あのエネルギーこそ、利用しない手はないね。太陽をエネルギーとして利用する方法を広めることが林さんの使命だとしたら、ああいう貧しい国で、少しでも多くの人たちに、違った太陽エネルギーの利用をさせてやれたら、僕はいいと思う。あの太陽、あの暑さは、彼らにとって、ある意味では敵だよね。だけど、あれだけのエネルギーを、使わない手はないと思うんだ。
インドは、そういう意味では外国企業に対して積極的なんですか。
大朏 ご承知の通り、アメリカとの冷戦が終わって3、4年になりますか。これからやっと自由経済、市場経済になろうとしているわけですね。だから僕は、インドを選んだわけ。今、みんなどこでも中国だと言っているし、社員たちも中国だと言う。よし、わかった、と。中国には人間と技術は出しましよう。ただしイニシャル・コストは出さない。インドの方にはお金をかけましよう、というふうにね。両方とも一気にいっちゃおう、ということでね。
インドのどのあたりなんですか、マドラスは。
大朏 一番南の方。船で行くと、日本から一番近いところですよ。インドには金をかけてもおもしろい理由があるんです。ひとつは、アメリカなどとは違って宗教がある。これに対して中国は法律がない。刑法がない。人民法で死刑なんかが決められてしまう。商法もない。ということは、契約がないわけだよね。まして土地は全部、国のものですから。どういうことになるかわからないから、僕は投資したくない、と。
この間も企業に還付する約束だった付加価値税を、外国企業には適用しないっていう発表がありましたね。
大朏 そういうことを平気でやるわけだね。その分をひとつのインセンティブとして見込んで、減価償却分ぐらいの利益は出るかな、と思って計画していると、突然やめたって…。企業経営する上で、そんな気まぐれなことでは、不安で仕方ない。だけどインドっていうところはね、信心深いんですよ。というのは契約を守るし、メンツということを考える。中国人はメンツといっても拝金主義的なところが大きい、とくに最近は。
なるほど。
大朏 僕はナショナリストではないから人種がどうこう、ということじゃないけど、どっちを選べば安心か、という意味でインド。それと、マーケット。中国が12億とか15億人っていうけど、インドも9億か10億か、まあだいたい10億ぐらいとわれている。それこそアラブの金の馬、銀の馬ではないけれど、歴史の長い国だから、とてつもない金持ちがいるわけですよ。日本人の金持ちの比じゃない。(ソフトバンク社長の)孫さんのような人がいっぱいいる(笑)。たとえば10億のうち1割がそうだとしたら、1億人。もう、日本のマーケットなんだよね。1パーセントでも1千万人。この1千万は、日本の10パーセント以上になるぐらいの資産を持っている人たちですよ。歴史が長いということは、そういう底深いことだと思う。
うーん。
大朏 そういう国の、ある意味では恵まれた大陽、そのエネルギー。これは彼らにとっては害以外の何物でもないわけでしよう。


■ 林武志に壮大なことをやらせたい

実はフィリピンやマレーシア、インドネシアあたりで提携しようっていう人がいて、僕が考えていることがあるなら、どういう概要でいくか、まとめてみんかって言われたことがあるんです。でも、まだ俺にはそんな力もないし、日本という国の中で、やれることをやってみて、それからそういうことも考えてみようと思ってるんです。市場は枯れないって。だから時代はいつでもいい。 だからもう少し自分に力がついて、日本の中で本当の意味での朝日ソーラーの地盤が固まってからでも遅くないと自分に言い聞かせているんです。僕も、中国よりもインドの方が、これからおもしろい国かな、と思ってました。大朏社長は世界を股にかけて、業態的にもそうして伸ばしてこられた。しかし自分の場合は、まだ日本という国にこだわった方がいいんじゃないかって。もう少し、日本の中の基盤整備を、それと市場は逃げないってことが、あわてなくていいかな、と。
大朏 それはそうでしようね。ただね、御社の仕事に対してというよりも、林という男に関してあえて言えばね。太陽光の恩恵は、日本という国はちょうどいいぐらいに受けてるんだよね。それと同時にわれわれの生きてる時代は、わりあい裕福でいるから、ソーラーを使わなくてもやっていける人はやっていける。ああいうものを使わなければ損だという人で、むしろそこからはずれた人が、本当のお客さまなんじゃないかと僕は思うよ。 立派な家の屋根の上にあれを乗せるかということになると、けっこう、そんなことしなくてもガスを焚けばいい、灯油で焚けばいいや、というのが現状、あると思うんだよね。もちろん、灯油もガスもある、そういうことも含めて太陽エネルギーを使った方がいい。もちろんそうだけれども、雪国の雪と同じように太陽が生活の妨げになるような国に持ち込んでやった方が、朝日ソーラーの企業規模云々ではなくて林武志には、ああいうでっかい国でそういう壮大なことをやらせた方がいいかなあ、と思って。そりゃあ、企業の規模として今、力をつけておきたいという気持はわかるけど、僕は向こうに行ったから力がつかないとは思わない。むしろ加速度的につくと思う。
大陽を光と熱に二分すると、光の方はアジアやアフリカといった発展途上国の方が利用率は高いんですね。今度はそういう末整備なところに出てみたいとは思ってます。ただ、自分の会社を5千億円に持っていきたい。この11月1日で90店の拠点を設けた。僕はどうしてもタッチダウン方式で考えるというか、これが100店になったらこれぐらいの売上で、これぐらいの利益、というような。おおかた5年先ぐらいのことはシミュレーションできるんですね。でも自分の社長としての寿命の中では5千億は越せない。じゃあ3千億を達成するためにどうしたらいいか、と目線を逆にしてみると、その時には大朏社長のおっしゃるように生産の拠点、販売の拠点をどうするか。その時、国内だけにとどめておくのか。そのタイミングは、これから真剣に考える時期かなあ、と思ってます。
大朏 チャンスがあつたら、マドラスであれフィリピンであれ、とりあえずやらせてみるか、ぶつかってみるかって、やってみるのもひとつの手だね。
そうしたら一体どういうところか、社長、今度インドにいらっしやる時に…。
大朏 一緒に行きましょうよ。フィリピンも。見るだけでも全然イメージが違うからね。
行ったら「やろう」ってことになりますよ。
大朏 多分そうだろうね(笑)。


■ インドで、企業の生き方を考える

朝日ソーラー社長 林武志僕はインドの熱心な方に頼まれて、温水器を1台、無料で取り付けたことがあるんです。4年半ぐらい前です。インドに工場を造って、私たちとやってみませんかって言う人がいて。だけどその時、僕はもうこっちが精一杯ですって言って、とにかく取り付けたものにもメンテも何もできないので、どういうことで故障が起きるか、そちらでやってみてください、と。それで、インドもけっこう…。
大朏 いい足がかりになるかもしれないよ。僕はあの国を見て、僕たちもいつか通ってきたあの貧しさ…。人さまの国に行って「貧しい」なんて無札なことを言うつもりはないし、僕たちのできることなんて、たいしたことはないけれど、何かできるはすだよね。企業というのは、そんなふうに生きていってもいいのかもしれない。
逆にお聞きしたいんですが、大朏社長がインドに工場を持たれる、それは生産拠点としてだけでなく、そこで販売もしていくお考えてすか。
大朏 そのつもりです。今、外国にあるものは全部、別法人でね。インドの場合はスピーカ−とオーディオの工場。最初はスピーカ−の工場を考えてます。それからすぐ、オーディオの販売店を始めようと思ってます。
インドで造られた製品は、市場として全部、インドをタ−ゲットとして考えておられる。
大朏 インドのマーケット自体、まだそれほど大きくはないですけれどね。たとえば高級ステレオとなれば、さっき話したような、最低でも1千万人の対象がいるわけだから、これは大変なものだと思いますけれど、それはまだまだ、とても向こうでは造れない。まず部品1つ集まらない。そういう意味でのインフラができてないから。たとえば工場を造っても、電気や水道が安定して供給されるか、これも疑問ですからね。ですからどこの工場でも発電機を持っていたりしますね。ただご存じでしょうけれど、上手に使えば石油だって出る国なんだから、石油製品、樹脂類はすごく安いんですよ。
そうですね。
大朏 それとね、インドの優秀な人は、ものすごく優秀ですね。当然、人件費は安いですしね。人件費といえばね。スピーカ−の工場をインドに造るのに、うちのラインを1つ持っていったら、という試算をしたわけです。4億5千万円ぐらいかかるって言う。よし、それでやろうって言って予算を組んで、チームでインドへ行って始めたわけですね。そうしたら、僕がオンキヨー・インドの社長にしようと思ってるインド人の男が、僕にこう言ったんだ。 「大会社は違いますね」って。もらった予算を全部、使おうとするって言うんだよ。インドでは、物干し台を造るぐらいなら、人に持たせておいた方が安上がりだっていう言葉があるんだって。木を切って穴を掘ってコンクリートで埋めるよりもね。インド人が自国をたとえてそう言うんですよ。インドに自動機械を持って来るぐらいなら、来るなって言うんだよ。それなら自分の国でやっていればいいじゃないか、インドでやるならもっと大勢の人が喜んでくれるような人海戦術でやったっていいじゃないか、と。そういうことをインド人に教えられましたよ。まったくその通りでね。バジェット(予算)をもらっちゃうと張り切って用意する、そういう大会社的な感覚が、うちの会社にも蔓延し出したってことさ。昔はこうじゃなかったはずなんだけど(笑)。


■ 海外進出を決めた指針は

もう1つ、僕が大朏社長に聞きたいのは、たとえばインドや中国、フィリピンへ進出するという時、「よし、やってみるか」というのは、何を1番の指針として決断されるんでしょうか。
大朏 それは数字の上の話ですか。
ええ、社長は数字に明るい方だから、数字で判断されるんですか。
大朏 会社というのは、長続きしなくちやいけない。そのためには、まず基盤として数字をきっちりしなかったら、何を言ってもダメだと思うんですよ。それが無責任にならないために。そうすると、僕自身はどういうことを基準に考えるかというとね。投資したお金が、手持ちの金なら、銀行金利よりよければ投資した方がいい。借りた金を投資する場合は、銀行金利より1円でも稼げるなら、やった方がいい、という考え方ですよ。
  もちろん、われわれの場合は設備投資するから、減価償却がある。だから銀行金利プラス減価償却よりも1円多かったら、やったら儲けっていうこと。減価償却の分だけ儲けることになる。ということは、続けられる、ということです。続けられるとどうなるかというと、商圏が広がる。そこでやっているだけでも、人も育つ。ですから、長続きするにはまずお金。金が間尺に合うかどうか。ですから僕が社員に、設備は何でも買ってやるって言っているのはそこなんです。部下がそういうところをびっちり計算して持ってくるから、僕が文句をつけるところがない。この5年ぐらい、稟議書が上がってきて、「否」っていうところに判を押した覚えがないですよ。
そうしたら、たとえば大朏社長が朝日ソーラーの社長だったとして、どうしますか。今度、インドとフィリピン見てみんかって。
大朏 当然見に行きます。やっぱり匂いをかいで来たい。すさまじい暑さって、どんなものだか見てみたい。それに僕は本を読むね。行った時に共通の話題がひとつできるだけでも損じゃないからね。それからインドなら、だれかインド人に知っている人いないか、とか。人っていうものを知りたいと思いますね。さっき言ったような金の問題だけではないとなれば、人とか情報をくっつけていきます。
そうすると僕は、かなり消極的ですね。
大朏 いや、僕から見たら林さんが消極的だなんて、これっぽっちも思えない。それは林さんが、林さんのモノサシで測るから。たとえば、僕はよく人から決断が早いとか、いい度胸してますねって言われる。でも僕は自分では決断力がなくて度胸がなくて、肝が小さいと思ってるわけです。僕は用心深いですよ。だからメーカ−以外のこと、経験のないことには手を出さないでしよう。
 または、この会社を見てくださいって言われることがある。僕は、僕なりの見方を知ってるんです。たとえば人が3時間かかって数字を分析するところを、僕は5秒で分析する。3時間と5秒の差は、単純に計算すれば1週間と5分の差ですよ。だから決断が早く見えるだけ。度胸なんかよくないって。すごい優柔不断(笑)。僕は林さんこそ、すごいと思うよ。あのアジア大会の1件ひとつにしたって…。すごいことする、俺にはできないと思うよ。あんなの見て、そういう社長よりいい度胸だなんて思うわけないでしよう(笑)。


■ オタオタするな日本

大朏 インドや中国の話を聞いていて、僕は最近よく思い出すんですけど、産業の空洞化というのは、今に始まったことではないということですよ。25、6年前から大騒ぎしてた。たとえば輸出用のトランジスタ・ラジオ、ソニーをはじめとしてアメリカでワーッと売ってたんですね。それが人件費が安いからどんどん台湾や韓国に仕事をとられて、日本は空洞化を心配した。 僕はその頃から言ってたの。心配することないって。人件費が安い安いと言ったって、日本で全部自動機械で造ったら、人件費なんていらない。それに自動化する知恵、設備、そういうものは世界中、どこに行っても日本以上のものはないですよ。イザとなれば、完全に1人の工員もいらない自動化はできると思ってる。そうなれば、何も中国の奥地に行く必要はない。もちろん、その自動化機械を造る開発費とか減価償却の問題はありますけど、基本的には大きな問題ではないです。だから人件費の問題だけで、渡り歩くような仕事はしたくないな、と思っているわけ。今日までそうしてきて、そんなに間違いじゃなかったものね。
その空洞化のことは、僕の言葉で言うなら、「バタバタするな」ということですよね。
大朏 そうですね。
僕も実はそう思っていて。なんて言うか、この1、2年バタバタして、日本人が今まで持っていた美学、生き方、生きざま、自分たちの成長の軌跡、足元、そういうものまでどこかに追いやって、そうしなければ日本は沈没する、というような…。今まで日本が尊んできた葉隠、武士道にまでさかのぼらんといかんと思うんですが、潔さというのか、日本人しか持ち得ない企業文化なり国民文化、日本の美しさ、精神的な意味を含めていろんな意味での美しさ、これを破壊してまで日本の未来はない、と。 文化というとすぐコンサートだとか言う。でも僕は文化といったら生き方なんです。日本がここまでなり得た、汗と涙と血まみれの、いいところまで彼方に追いやる必要はない、そんな安っぽい国民ではない、と。もうちよっとドーンとしてください、そして超然と、泰然とした中で、中国へだとか、インドや東南アジアへの進出だったら賛同できるんですけれども、なんだか、そうしなければ世界の潮流に呑み込まれる、はじき飛ばされる、そういう考え方はやめてください、と。そういうことをもう一度、覚醒させたいという思いなんです。
大朏 林さんと会うと、いつも日本人というか、人間の生き方についての話になってね、感銘を受けるし反対するものでもない。まったくその通りだと思うんだよね。ただ、そういう考え方で影響を与えるといったら、今のところ日本では経済圏の中でしかできないでしよう。それなのに経済そのものがオタオタしてるから、どっしりしていなさいよ、ということにつながると思うんだけど、その前にね。日本が、日本たるものを主張できるチャンス、たとえばわりあい最近のことでいうと、あの湾岸戦争の時、僕は失敗したと思ってるんです。
はい。
大朏 あの時、とにかく日本は(戦争などに)一切参加いたしません、と言っちゃえばよかったんだ。それじゃ石油は入らないぞ、とアメリカあたりが脅してきたわけだね。石油、入らなくてもいい。みんなでもう一度、農耕民族やってもいい。石油を売りたくないなら、売るな。私たちは、原爆で40万人を越える死者を出すような悲惨な経験をした。金まで払って、自衛隊まで送って戦争に荷担するようなことは、私たちはしない、と。日本の憲法はこういうものなんだということを堂々と、当時、海部さんは言うべきだった。僕は政治家になりたいと思わないけれども、でも僕があの時首相だったら、そう言ってる。ポーズなんかじゃなくてね。あの原爆を落とされた、ただ1つの経験のある国が言うならば、世界中の人が日本ってすごいな、すごいこと言うなって思ったと思うんだ。
まったく同感です。90億ドルも使って、ほかのいろいろな国からの評価が何もないんですね。日本のやることと、世界が日本をとらえている見方と、どうもしっくりこない。
大朏 あんなものに金をかけるぐらいだったら、たとえば中国でご迷惑かけた、あるいは韓国の慰安婦の問題…。あれに払えばよかったんです。そうすれば、日本という国の考え方とか文化、そういうことが理解していただけるチャンスになった。どんどんそういうものを整理して、要するに戦争をすることは高くつく、と世間に知らせた方がよかった。もう充分、原爆を落とされたことでも、高くつくことはわかったんだから。そしてどれだけ、林さんの言う日本の文化、そしてその美を知ってほしいと言うときに、楽な土壌ができたかと思う。
大朏 ところで、話は全然違うんだけど、朝日ソーラーの顧客として考えているのは、具体的にどういう人たちなんですか。
だいたい年収で800万円前後、一軒家ですね。
大朏 そうか、一軒家で持ち家でなければ取り付けられないね。
それと、支払い能力のない人のところには取り付けしない。だから、そういう意味では倒産要素がないんですね。
大朏 というと…。


■ 100パーセント不渡りがない

わが社の場合の資金面のシステムというのは、まず契約を取りますね。たとえば大朏社長が買うっておっしゃるとする。それで今日、契約書に社長の印鑑をいただく。今、前納金を入れてくれとか、言いません。2カ月後から3千円ずつ払ってください、工事は今、忙しいので1ケ月後になると思います」と言います。今日が11日、そうすると今月20日には、信販会社から入金があるんです。取り付ける前に、もうお金が入ってきてる。そして基本的に、そのお金は返さなくていいんです。だから、入金があった時点で発注をかければいいんです。
大朏 ということは、朝日ソーラーが不渡りをもらう可能性は…。
ないです。100パーセントありません。
大朏 いいですねえ。100パーセント直販で。
そうです。以前、税理士さんの集まりで講演したことがあって、質疑応答の時、社長のところは毎月、新しいお店を出しておられるけれども、これはどうなってるんですかって尋ねられたんです。それで、今みたいな話をしたら、納得してくれた。だから心配はなさらないように、と(笑)。
大朏 ここまできたら、そういうシステムをきちんと説明することも、信用を形成していく上で大事なことですよ。そうすると、資産内容とか経営内容を係数で言うと、銀行さんから見たら、もっともとらえにくい会社だな。

プロがプロに聞く経営の話


■ 最悪があの時でよかった

3年ちょっと前に大朏社長に、帳薄を見ていただきたいってお願いしたことありましたね。あの時が、最悪だったんです。63億円、借り入れがあったんです。定期が4千万円で。
大朏 それは大変だよね。
大変ですよ。僕が受けていた報告は、30億円ぐらい定期預金があるって、それで僕は借金はだいたい8億から10億円ぐらいだと…。
大朏 思ってたんだ(笑)。
思ってたんです(笑)。そうしたらこれでしょう。僕の知らん銀行が、広島銀行、愛媛銀行、伊予銀行…。いろいろあるわけです。それで公認会計士の先生に、なんですか、これって聞いたんです。そうしたら冷徹に「朝日ソーラーさんが借りてるお金ですよ」って。ちょっと僕、知らんですよ、ウソでしょ、冗談でしょ。「いやいや、社長」って。もう、顔からさーっと血が引いて(笑)。すぐ会社に帰ったんですけど、もう経理部長は行方不明で、おらんでしょ。
大朏 こっちが行方不明になりたかったよね。
(笑)。今は逆転しました。大分銀行さんで5億円だけ借りていて、これはお付き合いということで。定期として66億円、貯めることができました。
大朏 だけど考えてみれば、あと1ケ月、あるいは半年、それがわからなかったら、もっとひどいことになっていたでしょう。よかったよね。
今は本当にそう思います。だから、北九州の方角を向いて、「○○、ありがとう」って(笑)。その経理部長だった男が北九州の方にいるって聞いたんで…。あれがわからなかったら、イケイケどんどんで、ザルみたいなものですよ。働けど働けど追いつかない。
大朏 それは精神的にも…。
ぐったりでした。それで大朏社長に会うために書類や帳簿を持って名古屋に行って、そこで風邪で倒れたんです。結局、病院に運ばれて点滴打って…。
大朏 そんなに大変だったって言わないから知らなかった。風邪をひいたぐらいの説明で。約束の時間に来ないから、案外約束を守らない男だなあと思ってた(笑)。
あの時は、3ヶ月近く、全員が日曜返上で働いたんです。内勤の女子社員が6人辞めました。なんで社長のミステイクにわれわれが犠牲にならなければいけないのかって。このくそったれが、と思いましたけど(笑)。
大朏 社長業やってて、何が一番イヤって、社員に辞められることだよね。
ええ。
大朏 辞めさせるより、辞められる方がイヤですよ。兄の会社に行きますとか、どんなこと言ったって、俺のところにいるより兄貴のところに行く方が幸せだっていうことだからね。あれこれ理由つけたって、やっぱり辞められる方はつらいよね。
つらいです。それで、辞められることで何か得することはないのかと思って、ある人に何げなくそう言ったんです。そうしたらその人は、「林さん、1000人辞めたけど1000人はついてるじゃないか」ってひと言言ってくれたんです。今はもう、基本的に割り切って考えるようにしています。
大朏 そう、僕はこう考えてるんですよ。辞めていく人間に、辞めないでくれってすがるのは、残ってる人たちに失札だ、と。出て行くって言う人よりも、今いる人たちの方が大事だから。僕は絶対、引き止めない。組合の連中からなんとか引き止めてくれって頼まれた時も、じゃあ委員長の顔を立てて止めてやるか、ぐらいで。だけど止まらない。止める情熱が僕にないから。「止めてくれって言われたから、止めといたよ」。そりや止まらないよ(笑)。
(笑)まったく同感です。
大朏 だけどそう言ったって、やっぱり辞められるのはイヤだね。何年たっても、これだけは慣れない。暮れになって、ボーナス払う金がなくて、銀行に日参してやっとボーナス代借りてきて払ってね。次の日、会社に行って…、みんな来てるかなって(笑)。
わかります(笑)。
大朏 それでトントンなんてノックされると、辞表持ってきたんじゃないだろうなって。
ボーナス払った翌日は、会社に行って部屋から出きらんですよ(笑)。
大朏 だけど不思議なものでね。林さんも典型的にそうだろうけど、ボーナス出した後、「昨日はどうもありがとうございました。こんな景気の悪い時なのに、こんなにボーナスいただきました」なんて言われると、いや、すまんなあ、もっとあげたいんだけどって言うんだよね。それが聞こえよがしに「どこそこじゃ何ヶ月分なんてもらって、いいよな」なんて言ってると、てめえこのやろう、その会社に行けーって(笑)。今でも覚えてるんだ。森進一が25、6の時。2億円稼いだって話題になって、「いいなあ、オレと同じ年で」って言うから、お前も歌手やれって。
わかります。「昨日はどうもありがとうございました」って言う人は本当にありがたい。
大朏 営業の真髄はそこだと僕は思う。そういう親のもとに生まれた子どもたちはそうなんだろうな。それこそ、これは経営者同士の話だけれど、あまり金の苦労をしていない役人の子とか、教師の子どもとかは…。ダメとは言わないけれど、気配りが足りない。やっぱり、八百屋とか魚屋、商売やってる家の子どもたちは頑張るね。たとえば実家が八百屋で、そこの丁稚どんが賞与もらった時に、「親父さん、ありがとうございました!」って言った言葉を聞いて、親父がニコッと笑ったのを見ると、ものをもらった時にはこういうふうに言うものなんだ、と。または親父が母親に「田中は礼を言ったけど、小林は知らんぷりしてるなあ」なんて言ってるのを聞くと、やっぱり礼を言うべきなんだなって思えるわけだよ。ありがたさがわかるっていうかね。


■ ついてこれない社員をどうする

僕のところでは、毎月1回、各地から20名ずつ選んで初級営業講座と工事部講座をやってるんです。営業部と工事部の人の決定的な違いは、営業は概して頑張り屋が多いということですね。入社の動機や目的が首尾一貫してるんです。この会社に人って金を稼いで家を建てたいとか、ベンツに乗りたいっていう人もいました。そういう目的を持って、テ−マを決めて、突っ走る人は最終的に強いです。その時に夜、帰りが遅くなる、営業のいろいろな苦労がある、でもそんなことは厭わない、と。一方の工事部の人に言えることは、そういう意味での積極性が総じてないような気がするんです。そして、数字的なことに関して、僕に対して、組織に対してのつっこみが多いですね。自分たちが5年働いたらどうなるか、職域について会社はどう考えているのか、とか。 営業部と工事部では、会社に対する思いとか希望が、質的に違う。営業は1人で生きている。工事部は組織に頼る、だから安定しているほどいい。僕はどちらかといえば、営業とワーワー言ってる方がいいんです。
大朏 それがバランスじゃないですか。会社としは、いいことてしよう。みんなでワーワー言ってると、ひとつ間違えると…。逆もあって、バランスの悪い会社はたいていダメになる。だからそれは、いいバランスができてきてるんだと思う。いい兆候だし、いい選び方をされてるんじゃないですか。組織らしくなってきているということですよ。
  林さんのところは一般的な企業規模から見ても、とんでもないスピードてきたんだから。本来、四輪車で走るようなところを、自転車で始めて二輪車の不安定さで走ってる。そういう意味では、バランスがとれ出してきている、組織の作り方を間違えてないってことですよ。
それは両輪だと…。じゃあ僕は、この人たちと組織としてどう勝負していくか、この人たちにどうしたら組織に貢献していく気持が宿るか、強くなるか。今、始まりの段階に来たのかと自分では思っているんですけれど…。
大朏 結局、会社は社長の器以上の大きさにはならない。実際そうだと思う。ただ、会社の伸びと一緒に伸びてほしい部下たち、役員たちが、どこかでついて来れなくなる時があるんだよね。たとえば、あいつとは10年前、徹夜で一生懸命やってきたなあ、でも今、あいつではちょっと手強いかなあ、と。だけど一緒に苦労してきたものを切るわけにもいかん。しかし、もうこの事業規模の中では、モノサシが合わんな、と。そういうのは当然あるよね。そういう時、林さんはどうしてるの。
朝日ソーラー社長 林武志創業して1、2年、いいも悪いもでたらめだった、そういう時から本当に苦楽をともにしてきた仲間でも、ひょっとして1千億、2千億になった時、こいつらは…、と思った連中は、自然に辞めていきますね。そりゃあ、僕が叩いた、何か言った、そういうことがきっかけで辞めていった者もいます。けれど自然と、自分で自分の力を知って、男の潔さで辞めていきます。そういう時、僕は「すまんやった」と心の中で謝ります。それで人がびっくりするような額の退職金を渡します。
大朏 なるほどね。


■ 副社長を担がせる

それと、僕も「オレの器以上に会社は大きくならない」と広言してるんです。そしてそれを支えるナンバーツーの力以上に会社は大きくならないだろう。僕のところのナンバーツーは市川(副社長)といいます。それで市川の物腰や発言を見たり聞いたりしてるんです。その上で、あえて言っているのは「オレが死んだら市川が社長だ」と。逆に言えば、市川をそういう目で見てもらいたい。この男を担がなきゃしようがないって。とにかく今は、市川が僕と同じであることを示して、彼にないところをお前たちが頭で、行動力で補っていくんだ、それでなければオレが許さん、と。
  そして市川に対して言っているのは、「10年前のオレとお前じゃないぞ」。いや、オレとお前の間柄はいいと。ただ、そう見ない人の目も出てきたぞ、と。常に彼も前線の一支店長の感覚で、さらに副社長の職務を果たそうと一生懸命なんです。頭がなければ汗で、と僕は言っています。だからあいつも身の丈以上のことは言わないし、やらない。それで会社が3千億にならないで倒れたら、それは仕方ないと思ってます。そういう意味で、副社長と林武志は一卵生双生児だというふうに思わせるのが、僕の最大の仕事なんです。
大朏 こうあってほしいと思うより、ちょっと足りない人間でも、なんとか育ってくれるかな、という思いと、やっぱりあいつは人の前ではしゃべらせられないな、と思うことがあったりね。それを、こいつにさせるんだ、と決めることには勇気がいるよね。もしも僕が、たとえば副社長はこいつだって指名するとするでしよう。その時に、あいつがなるんだったら、とてもじやないけどオレたちの出る目はないなって思われたとしたら、それは大変なミステイクなんだよね。ほかの人たちにとっては、早くに決められるのは迷惑なんだ。それを林さんがこいつだって決められたのは、決められるだけのいい仲間だったってことで、やっぱり幸せなんだろうな。
それとね、もうひとつ、市川に言っていることは、この会社がこの先10年、15年続いていくなら、オレたちも一線を退かなくちゃいかんと。それ以降はオレたちがやってきたこと、考えてきたことを次のやつらに移行せにゃならんぞ、と。そうしたら、市川は「オレもそう思います」って言いました。そういう意味で、軸はブレてない。


■ ワンマンじゃダメな時期がくる

大朏 僕が林さんを見てて思うのはね、会社っていうのはワンマンじゃなきゃ、やれないんだよね、間違いなく。できっこない。それで僕が、どこかでひとつ事業をやっていくたびに思うのは、ワンマンじゃなきゃいけない時期から、ワンマンじゃいけない時期に入っていくんだよね。ワンマンじゃダメな時期っていうのが、やっぱりあるんだよ、林さん。だから林さんがいつそこに行くかと思うんだけど、たぶんこの勢いが少しでも翳った時。会社の勢いじゃない、あなたの体力や気力が、ちょっとでも翳ったら、それは、ワンマンじゃダメな時期なんだよ。その時に、どんな人を揃えておけるかですよ。
そのワンマンじゃいけない時期というのは、創業して何年とか、企業規模の大きさにも関係しますか。
大朏 規模ではなくて、気力だと思う。というのは、さっき言ったように、社長の器以上に会社は大きくならない。ということは、個人個人で会社の規模は違うわけだから。5人、6人の部下ならできるけれど、30人の部下を持つ課長になったらできない、という人もいるんだよね。林さんがワンマンでいた方がいいのは、今は、たぶん商品がきわめて少なく、派生商品が出てきていないから。「これだ」というのをお持ちだから。これは1千億でも2千億円でも、どんなに広がってもいいですよって、マーケットが許してくれているうちはワンマンでいいと思う。あの手この手の競合商品が出たら、後は気力ですよ。林社長、急に人あたりがよくなっちゃったな、とか、おい、このやろうっていうのがなくなっちゃったな、とか…。そんなふうになってきた時。林さんの場合はそうだろうな。
僕は気力と、それから体力も重視します。僕が社長の寿命を10年で区切っているのは、10年したら54歳。世間では出向に出たり戻ってきたり、だいたい一線から身を引きますね。だから、そこまでは気力も体力も、あると思ってる。もう少しわかりやすく言うと、僕が任命した取締役、そのひとりひとりと1対1で対決して、オレが勝つっていう自信がなくなったら、社長を辞めるべきだと思ってます。
大朏 すごくわかる。僕も、こいつと殴り合いやって負けるようになったら引退だなって。そういうのあるよね。ヘンな話だけど(笑)。今、うちのグループで何千人いるかすぐにはわからないけど、オレと本気でやって勝てるヤツいないんじゃないかと思うもの。林さんも暴れ者だっていうけど、林さんとやっても僕は絶対負けないと思う。なぜなら、僕がやりだしたら、死ぬまでやるから。僕は敗北感を味わうことはない。死ぬまでやるヤツと、やりたくないでしよ(笑)。
はい(笑)。ただね、取締役会、あるでしよ。会社がだんだん大きくなって、彼らの権限も大きくなっていく。三越の岡田さんが「なぜだ」って言った解任劇…。たいがいやられるのはここだって僕はわかるんで、彼らが反旗を翻したら、志の生命は絶たれる。だから僕はいつも彼らを恫喝しておかなきゃならん、と。
大朏 それが不幸の始まりなんだよ。自分は体力も気力も、ここまでは大丈夫って言ってるのは、体力も気力もあるからなんだよ。判断がきくんですよ。ところが、自分では体力も気力もあるつもりでも、たとえば10年後、本当は90パーセントのつもりだったのに60パーセントになっていることに、本人が気がつかないとするでしよう。これが不幸なんだよ。でも周りの人が見ると、林さんもあれだけ元気よかったのに、一体どうしたんだろう、ということに、本人は気がつかない。
  だから元気のいいうちに、「なぜだ」なんて言わなくてもいいように、ちゃんと直接、忌悼なく言ってくれる部下を持たなければ。そう思った時には用意しておくべきだ、と僕は思ってる。僕はそういう部下を作ってるつもりです。仲間でもいい。たとえば僕とお互いに、「その時は言ってよね」って。


■ 社長のようになりたいと思わせる

大朏社長は僕の目標であるし、これから僕はそういう意味で、うちの社員のあこがれとか、そういう対象でありたい。林武志の文化、行きざまを高めていきたいと思ってます。
大朏 いつも林さんみたいになりたいな、と社員の人たちが思うようでなけれぱね。やっぱり、そのためには適当にいい家に住み、いい車に乗り、いい服も着てないと。なんだ、社長になってもあの程度かと思ったら、だれもやる気出ないから。変に目線を下げて、お前たちと一緒なんだなんて作業服着てるとか、そういうことじゃないと僕は思う。
  たとえばね、うちの会社の食堂には喫茶室があって、係長になると休み時間以外でも自由に使っていいことになってる。たとえば友だちが訪ねてきても使える喫茶店が社内にある。課長以上になると、建物の入り口の近いところの駐車場を使っていい。一般社員は遅く来ると、歩いて5分くらいかかる。見た目だけじゃわからないから、部長以上はネクタイを締めろって。それはネクタイをするからいいとか悪いとかしやなくて、そういうものだという…。そういうことも、大事なことだと思う。だから僕は、いけ図々しくやらせるんです。
僕も、副社長や取締役が本社で会議する時、思ったんです。だれも挨拶しない。それで、「だれのおかげでメシが食えとるんか、副社長が来たらビシっとせんか、中島(常務)が来たらちゃんとせんか、これがナンバースリーや、なんでわからんとか」って。
大朏 成績もよくなるでしよう。
ええ、そのへんのメリハリをきちんとつけないと、みんな公平って中で何ができるか…。ワンマン、独断と言われるかわかりませんけど。
大朏 林さんは本当に若くして、こうやって頑張っておられるんだから、ホープなんだから、孫さんの(資産)2千億に負けないよう、頑張ってください。

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雑誌「企業家」1995/12月号より転載。
本欄は(株)企業家ネットワーク様のご好意により実現したことを記し、謝意を表させていただきます。

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