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プロがプロに聞く経営の話
量より質で 世界ナンバーワンを目指す
Guest   トヨタ自動車取締役社長   渡辺捷昭
Host オンキヨー会長 大朏直人


オンキヨ−会長
Host 
大朏直人 Naoto Ohtsuki

トヨタ自動車取締役社長
Guest 
渡辺捷昭 Katsuaki Watanabe

昨年、米GMを抜いて世界生産台数で一位の自動車会社へと成長を遂げたトヨタ自動車。現在も品質の追求を第一に、環境やエネルギー、安全に適したクルマの研究開発に力を入れる。同社を率いる渡辺捷昭社長は「我々はいまだ発展途上。理想のクルマや会社には程遠い」と危機感を示し、「走れば走るほど空気が綺麗になるクルマをつくり、理想の街づくりに貢献したい。常に量ではなく質の面で、世界ナンバーワンを目指す」とその想いを語る。渡辺社長と20年来の交友があるオンキヨーの大朏直人会長が、トヨタの強さの秘密と今後の成長戦略に迫った。

■ 経営とは目標と現状のギャップを埋めること

大朏 渡辺さんが2005年に社長に就任されてから約3年が立ちました。その3年間で何か変化はありましたか。
渡辺 私自身はあまり変わっていないと思います。社長に就任する時も、「自然体でいこう」と決めました。「トヨタの社長だ」という意識が強くなりすぎれば、私らしい仕事が出来なくなる。だから自然体がいいと思ったのです。実際、部長時代や取締役時代から大きな変化はありません。ただ社長としてやらなくてはいけないことはあります。例えば、記者発表では自社の商品をアピールしたり、写真撮影では笑顔でいなければいけません。責任も重くなりました。しかしそれ以外の仕事に対する取り組み方は変わりませんね。
大朏 仕事に対する取り組み方について詳しくお聞かせください。
渡辺 仕事とは、常に志を高く持つ一方で、自分の身の丈を評価し、そのギャップを埋めることです。具体的には5年後の目標を定めた上で、「見える化」を徹底します。部門、地域、プロジェクト、時間軸などで、今のトヨタにどんな問題や課題があるかを見えるようにしています。例えば、部門別では、「開発、生産準備、生産、調達、販売・サービス」でそれぞれ見える化をします。各国の開発はうまく進んでいるか。生産体制は整っているか。品質は保たれているか。販売スタッフは十分にいるか。教育はきちんとされているか。そこで身の丈をはかり、目標との差を正確に掴むことが大切です。そして、そのギャップを埋めていくことこそが経営であり、仕事の楽しさなのだと考えています。

■ 質の向上なくして成長なし

大朏 トヨタは昨年、世界生産台数で米GMを抜いて世界一位の自動車会社に成長しました。世界一の自動車会社が掲げる今後の目標とは何でしょうか。
渡辺 おかげさまで最近では販売数がどんどん増えていますが、我々は量の拡大を目標にしているわけではありません。大切なことは、世界一高品質でよい自動車を世界で一番早く、世界で一番安くつくれ、世界で最もサービス力のある会社にすることです。私は就任以来、「質の向上なくして成長なし」と常に言い続けています。例えば、世界で最も質の高いクルマとは、走れば走るほど空気が綺麗になるクルマだったり、乗れば乗るほど健康になるクルマです。そういうクルマがあれば、お客様もきっと喜んでくださいます。
もちろん現状から見れば、夢の世界です。その夢や目標に、我々はぜんぜん届いていません。「夢や目標を実現できるように、みんなで頑張ろう」というのが我々の志です。その志に対する実力がまだまだ足りないので、ギャップを埋めていきたい。だから質の向上なくして成長なしなのです。
大朏 量ではなく質で、世界ナンバーワンを目指しているのですね。
渡辺 質を向上させれば、量はあとからついてくると思っています。質の面でいえば、我々は夢のクルマを実現できていませんし、サービスだって改良の余地は山ほどあります。品質もそうですし、まだダントツではありません。コストもムダ・ムラ・ムリがまだまだあります。それらがある限りは、ナンバーワンとは言えません。高い質を常に追求し続けるDNAを持ち続けること。それが我々の目指す道です。 

■ 目標を実現する3つの方法

大朏 渡辺社長の語る夢や目標は、非常にわかりやすい。それがトヨタの強さの一つだと感じます。
渡辺 夢や目標を達成するには、3つの方法があります。ひとつは自分たちでやること。もうひとつは、他社と組んでやること。3つ目は、他社に任せることです。目標に対して、自分たちでやるべきだと考えたら、何が何でも頑張って集中して取り組んでいきます。自社だけでは間に合わない場合は、協力会社やパートナーと手を結ぶこと。自分たちでは出来ないことは、他社にお願いすることです。その3つをよく考え粛々と行っていけば、いつかは目標を達成できると思っています。そういう考え方や気持ちは昔から変わっていません。ただし、外部の環境はどんどん変わっていますから、その変化を先取りすることが大切です。そこだけは間違えてはいけないという思いが強くありますね。

■ 「こまかい、うるさいしつこい」を徹底する

大朏 トヨタは右肩上がりで成長し、我々から見ていると、まるで問題がないように見えます。しかし渡辺社長は常に危機感を持っていらっしゃる。経営陣が常に危機感を持っていることも強さのひとつですね。
渡辺 問題や課題はたくさんあります。それはむしろ当たり前だと思っています。問題が見えているうちはいいのです。問題が見えなくなっているときが一番恐い。特に成長期は問題が見えにくくなりますから、常に危機感を持って、問題を発見し、顕在化させること。それが見える化の極意です。
例えば、経営陣が現場に行って、ゴミが落ちていたら、拾う。そして、現場に注意する。拾わないのもいけないし、ゴミに気づかないのはもっといけません。ゴミが落ちていれば、「次に来るまでに、絶対にゴミが落ちていないようにしておこう」と伝えます。その後も度々、「ゴミ対策はちゃんとしているか」と必ずしつこく聞きます。やっていないと、何度もうるさく確認します。
大朏 「こまかい、うるさい、しつこい」を徹底することがトヨタの強さなんでしょうね。
渡辺 もちろん言うだけではなく、自分の後姿を見せないといけません。経営陣が率先垂範することが大切です。私をはじめ、トヨタの経営陣は誰もが現場が大好きです。現場に行けば、ゴミを拾い、注意する。そうすると、「社長に言われないようにしよう」と、工場長が頑張る。工場長がやりだすと、部長も率先する。課長や班長もその姿を見て動く。すると、現場のスタッフ全員が変わり始める。この連鎖が上手く回っている会社とそうでない会社がある。成功のポイントは、それだけです。「問題発見能力がある」とか「見える化」など難しい言葉を使わなくても、現場に行って、「おかしい」と思った部分を直すだけでいいのです。やるべきだと思ったら、すぐにやること。私の主義は「明るく、楽しく、元気よく」です。暗いとマイナス思考になるから、明るくプラス思考でいること。主体性を持って仕事に取り組めば、楽しい。元気よくというのは、「いいことを早く実行すること」です。明るく、楽しく、元気よく仕事をしながら、改善を続けることですね。

■ 走れば走るほど空気が綺麗になるクルマ

大朏 トヨタでは、環境にいいエネルギーの開発にずいぶん力を入れているそうですね。
渡辺 我々の開発テーマは、「環境、エネルギー、安全、感動」の4つです。環境では、二酸化炭素などによる地球温暖化問題の解決。エネルギーでは、資源は有限ですから、石油だけに頼ることなく、電気、水素、バイオエネルギーなど、多くのエネルギー源に対応するパワープラントを開発・実用化すること。安全では、事故を起こさない、人を傷つけない、そして乗ると健康になるクルマの開発も大切。感動とは、「あのクルマに乗りたい」とお客様に思っていただけること。この4つのテーマに対して世界一のクルマをつくることが、我々のミッションです。絶対に実現しなければいけません。
大朏 例えば、エネルギーではどのような研究がされているのでしょうか。
渡辺 燃料電池やバイオテクノロジー、天然ガス、電気、水素など、あらゆるエネルギー源に対応するパワープラントを研究開発しています。少々コストがかかってもすべてのことを研究対象にし、自前で大きな成果を上げたいと思っています。すべてのものにハイブリッド技術を使っていきます。次に実用化したいのは、プラグイン・ハイブリッド(家庭用電源で電池を充電できるハイブリッド車)でしょう。また、その次は燃料電池が期待できますね。木質系のバイオエタノールも可能性があるでしょう。このように可能性のあるものは全部研究開発していきたい。クリーンエネルギーは世のため人のためになりますから、実用化を早くしなければと思います。

■ 環境にいい街をつくりたい

大朏 トヨタは街づくりも提案されているそうですね。
渡辺 環境問題はクルマだけの問題ではありません。街全体のインフラ整備も非常に重要です。我々は今、豊田市に「環境に優しい、人に優しい街づくりをしませんか」と提案しています。例えば、駅を降りたら、駅前広場に緑の景色が広がっている。トヨタ本社のある豊田市でも、地上は歩行者中心の街づくりがいい。駅前交通は地下道にクルマ、地上の道は人が歩くように、完全に分離されているのがいい。街中でも、バス、パーソナル車両、自転車など多様な交通手段が選択可能で、低速車両や歩行者専用の通行帯などの利用環境も整備します。それにより、渋滞や事故も大きく減り、環境にもよい。そういう街づくりをしたいと思っています。30年かかってもいいから、環境に優しい街づくりを実現したい。政府にも提言していますが、まずは豊田市でやってみたいと思っています。
大朏 トヨタがいえば、政府も検討するでしょう。
渡辺 でも検討だけでは前に進みません。我々は「環境に優しい、人に優しい街をつくりたい」と本気で思っています。そのノウハウを世界に情報発信ができれば、世界中の環境も改善され、日本のイメージも大幅にアップするでしょう。

■ 成功の要因を分析 王道を歩む

大朏 現代はサブプライムローン問題などが世界中に影響を与えます。トヨタのようなグローバル企業であればあるほど、その影響も大きい。その際、これらの外的な要因にどのように対応しているのでしょうか。
渡辺 外的要因であれ、内的要因であれ、困ったときは原点復帰することです。我々の原点は、現場です。特に製造現場ですね。油に手を汚して仕事すれば、いろんなことがわかります。その現場を大事にする気持ちがトヨタのDNAとして創業時から続いているのです。私も入社後、特に意識せずに、上司や先輩からなんとなく教わっていたような気がします。あまりうるさく言われたりはしませんでしたが、当時の私が上司に理屈を言うと、「何を偉そうなことを言っているんだ。お前は現場を見たのか」と常に言われました。そういう場合、たいてい現場を見ていないので、「すみません」と言って、現場に飛んでいったものです。 
大朏 この現場力がトヨタの最大の強さですね。この雑誌の読者には、ベンチャー企業の経営者も非常に多くいます。最後に、彼らへのメッセージをいただけますか。
渡辺 ベンチャー企業は柔軟性がありますし、高い目標を掲げますから、様々なことにチャレンジします。そのチャレンジする気持ちは絶対に忘れてはいけません。しかし、チャレンジした結果、失敗するケースもあります。私はトライアンドエラーが大好きですから、まずはやってみることが大切だと思います。しかしもっと重要なのは成功と失敗のケースをきちんと分析することです。失敗したケースは再発防止のために、「なぜこんなに失敗したのか」を分析します。ところが、成功したケースにこそ、ものすごいヒントがあるのです。成功したときこそ、「なぜ成功したか」を徹底的に分析しなければいけません。その分析が次に役に立ちます。失敗からの学びは再発防止になるだけですが、成功の分析結果は次の成長への大きなバネになるのです。常に原点に戻りながらもチャレンジし、成功と失敗の要因を把握しながら、王道を歩むことです。優れた戦略や戦術がいつもあるわけではなくて、愚直に、地道に、徹底的にやること。当たり前のことを徹底しなければ、何事もわかりません。


大朏直人 (おおつき・なおと)
1941年東京都生まれ。 ラジオ部品メーカーなどを経て、電子機器製造の日本電通を設立、社長に就任。 85年自動車部品メーカーの丸八工業(現テクノエイト)の再建を契機に、4社の再建に成功。 93年東芝傘下のオンキヨーを個人で買収、1年半で黒字経営に転換した。03年オンキヨーがジャスダックに上場、3度目の株式上場を果たす。 07年パソコンメーカーのソーテックを子会社化する。
渡辺捷昭 (わたなべ・かつあき)
1942年2月13日生まれ。愛知県豊田市出身。64年慶應義塾大学経済学部卒業後、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。調達部門、経営企画などを経て、92年取締役。常務取締役、専務取締役、取締役副社長を歴任。2005年、取締役社長に就任。モットーは「明るく、楽しく、元気よく」と「愚直に、地道に、徹底的に」。昨年、米タイム誌の「最も影響力のある人物トップ100人」の一人として選出された。

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雑誌「企業家倶楽部」2008/6月号より転載。
本欄は(株)企業家ネットワーク様のご好意により実現したことを記し、謝意を表させていただきます。

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