| 大朏 |
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冨山さんは産業再生機構の専務に就任される前から経営不振企業の再生に力を注いでおられますが、そのような事業に興味をもたれるようになったきっかけは何ですか。 |
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| 冨山 |
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父の影響が大きいかもしれません。父が勤めていたのは江商という総合商社でした。父が勤めていた頃は名門の商社として名が通っていて東証一部にも上場していたのですが、昭和四十年不況のあおりを受けて経営が傾き、兼松に吸収されてしまったのです。事実上の倒産ですね。そのため、江商で働いていた人のほとんどは失業してしまいました。そのとき私は小学校2年生だったのですが、「大きな会社でもあっけなく潰れるんだなあ」と幼心に思った記憶があります。
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| 大朏 |
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幼少の頃にそういう出来事に遭遇したことで、普通のサラリーマン人生を送ることに抵抗を感じるようになったのかもしれませんね。お父さんはその後どうされたのですか。
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| 冨山 |
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商社を辞めたあとに大手印刷会社からプロの経営者としてスカウトされ、その印刷会社が出資する新しい会社の立ち上げに参加しました。以来、歳をとって引退するまで創業経営者として会社の舵取りを担い、サラリーマンでは決して味わえないようなダイナミックな人生を送りました。皮肉にも会社が倒れたおかげで楽しい人生になったわけです。そういう父の姿を見て、自分の能力がダイレクトに企業の業績に反映される経営者という職業に魅力を感じましたね。
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| 大朏 |
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「門前の小僧、習わぬ経を読む」と言いますが、幼い頃から経営者の背中を見て育ったことで経営者的な価値観が自然と養われたんでしょうね。私もこれまで多くの経営者に会いましたが、そういう人は親も経営者であることが多いですよ。ところで冨山さんは東京大学在学中に司法試験に合格されていますが、法律家になることも考えていたのですか。
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| 冨山 |
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勤め先の会社が倒産して失業した父の姿を見ていたので、一介のサラリーマンになるのではなくプロフェッショナルな職業に就きたいという願望がありました。それで当時もっともプロの匂いがした法律家になろうと思いまして。でも、結局は司法の道に進まず、内定をもらった経営コンサルティング会社で働くことにしました。その会社で働いているコンサルタントもプロの匂いがしたし、さまざまなプロの経営者に会えるところに興味を惹かれたからです。今と違って当時はそういう人たちにスポットライトが当てられていませんでしたからね。
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| 大朏 |
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それでは産業再生機構のことについてお伺いします。まず、再生機構が設立された背景についてお聞かせください。
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| 冨山 |
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現在、日本経済は二つの問題を抱えています。一つは、財務の問題。バブルが崩壊したことで企業の資産価値は急激に下落しました。その結果、資産に対する貸付債権や金融資産が欠損し、いわゆる不良債権問題が生じました。このような現象は米国や韓国などでも過去に起きており、それらの国々では公的機関の設立により対処してきました。つまり、金融機関が企業に対して持っている不良債権を公的機関が買い取り、当該企業の債務を軽くすることにより事業の再生を図ったわけです。
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| 大朏 |
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日本の再生機構は米国や韓国を参考にして設立されたのですね。ということは、再生機構の目的はやはり不良債権の処理にあるのですか。
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| 冨山 |
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不良債権の処理が再生機構の真の目的ではありません。たしかに産業の再生のためには不良債権の処理が必要になりますが、それだけで再生するというのは幻想です。なぜなら、米国や韓国と異なり、日本ではバブル崩壊後十年以上も経過してから再生機構が設立されたために、バランスシートだけでなく事業本体も痛んでしまったのです。すなわち、過剰債務を抱えているために人材育成や技術開発に先行投資ができない。また、経営陣が痛みを伴う改革を避けてきた結果、不採算部門がいまだに切り捨てられずに残っている。これらにみられる経営の問題、これが第二の問題です。したがって、不良債権を処理するだけでは真の再生にはつながりません。
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| 大朏 |
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財務の問題と経営の問題を両方解決しないことには日本経済は立ち直らないのですね。ところで、企業の再建は既に外資系のファンドを中心に民間企業が手がけていますが、わざわざ政府系の機関を作る必要はあったのでしょうか。
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| 冨山 |
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民間の再生ファンドにはない再生機構の強みは大きく二つあります。一つは、再生機構が間に入ることで複雑な権利関係を解きほぐすことができる点。企業というのはたいてい複数の銀行から融資を受けているもので、当該企業と複数の銀行の間には複雑な権利関係が築かれています。こういったしがらみがあると、再生ファンドやメーンバンクが企業の再建策を考案しても、複雑に入り組んだ債権者の合意を取り付けなければならないためになかなか実行に移せないわけです。再生機構はメーンバンク以外の銀行がもっている貸出債権をすべて買い取るので、迅速に再生に取り掛かれるのです。
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| 大朏 |
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もう一つの強みは何ですか。 |
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| 冨山 |
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私どもには企業再生の豊富な経験がある点です。こんなことを企業再生のプロである大朏さんに言うのも釈迦に説法で恥ずかしいのですが、企業の再生は経験によるところが大きいんですね。再生機構には企業再生の経験が豊富なプロが集まっていますし、また、普通の民間ファンドなら手を出せないようなリスクの高い案件でも、再生機構には豊富な資金がバックにあるので引き受けることができます。
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| 大朏 |
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世の中には借金を懸命に返済している企業がたくさんあります。にもかかわらず、再生機構は一部の企業だけを救済しており不公平であるとの声をよく耳にします。
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| 冨山 |
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よく誤解されるのですが、再生機構は経営不振企業を救済しているのではありません。私どもの真の目的は、市場の歪みを正し、経営資源の最適配分を図ることにあります。市場メカニズムが正常に機能していれば既に淘汰されているはずの企業や事業部門が、日本においてはさまざまな規制やしがらみに守られて生き残っているのです。そのために人材やお金などの経営資源が新しい産業や有用な事業部門へ流れていかないわけで、そういった規制やしがらみを断ち切ることが経営資源の最適配分につながると私どもは考えております。
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| 大朏 |
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再生機構は市場原理に反することをしている印象があったのですが、実際はそうではなくて、むしろ市場原理を徹底することで経営資源がより効率的に配分されるのを促しているわけですね。
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| 冨山 |
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はい。だから温情による救済を求めている企業はうちを避けていますよ。経済学には、「市場は万能であるから政府は何もしなくてよい」とするフリードマン派と「政府は積極的に市場に介入すべき」とするケインズ派の二つの考え方があります。今政府に求められているのは、市場の歪みを修正する役割です。そして、実際に修正する役割を担うのは再生機構で、修正を終えたら速やかに解散することになっております。したがって、解散する時期が早ければ早いほどいい仕事をしたことになります。
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