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プロがプロに聞く経営の話
利権を求めるのは堕落の始まり
企業家は“ガチンコ”で勝負し続けよ
Guest   産業再生機構 代表取締役専務兼COO   冨山和彦
Host オンキヨー会長 大朏直人


オンキヨ−会長
Host 
大朏直人 Naoto Ohtsuki

産業再生機構 代表取締役専務兼COO
Guest 
冨山和彦 Kazuhiko Toyama

日本経済の再生のため、2003年4月に官民共同で設立された産業再生機構。スタッフには企業再建の専門家を揃え、10兆円の資金を元手に経営不振企業の再生に取り組む。彼らの思い描く日本経済再生のシナリオとはどのようなものか。ナンバー2の冨山和彦氏に、企業再生の第一人者である大朏直人氏が鋭く切り込む。


■企業再生請負人のルーツ

大朏 冨山さんは産業再生機構の専務に就任される前から経営不振企業の再生に力を注いでおられますが、そのような事業に興味をもたれるようになったきっかけは何ですか。
冨山 父の影響が大きいかもしれません。父が勤めていたのは江商という総合商社でした。父が勤めていた頃は名門の商社として名が通っていて東証一部にも上場していたのですが、昭和四十年不況のあおりを受けて経営が傾き、兼松に吸収されてしまったのです。事実上の倒産ですね。そのため、江商で働いていた人のほとんどは失業してしまいました。そのとき私は小学校2年生だったのですが、「大きな会社でもあっけなく潰れるんだなあ」と幼心に思った記憶があります。
大朏 幼少の頃にそういう出来事に遭遇したことで、普通のサラリーマン人生を送ることに抵抗を感じるようになったのかもしれませんね。お父さんはその後どうされたのですか。
冨山 商社を辞めたあとに大手印刷会社からプロの経営者としてスカウトされ、その印刷会社が出資する新しい会社の立ち上げに参加しました。以来、歳をとって引退するまで創業経営者として会社の舵取りを担い、サラリーマンでは決して味わえないようなダイナミックな人生を送りました。皮肉にも会社が倒れたおかげで楽しい人生になったわけです。そういう父の姿を見て、自分の能力がダイレクトに企業の業績に反映される経営者という職業に魅力を感じましたね。
大朏 「門前の小僧、習わぬ経を読む」と言いますが、幼い頃から経営者の背中を見て育ったことで経営者的な価値観が自然と養われたんでしょうね。私もこれまで多くの経営者に会いましたが、そういう人は親も経営者であることが多いですよ。ところで冨山さんは東京大学在学中に司法試験に合格されていますが、法律家になることも考えていたのですか。
冨山 勤め先の会社が倒産して失業した父の姿を見ていたので、一介のサラリーマンになるのではなくプロフェッショナルな職業に就きたいという願望がありました。それで当時もっともプロの匂いがした法律家になろうと思いまして。でも、結局は司法の道に進まず、内定をもらった経営コンサルティング会社で働くことにしました。その会社で働いているコンサルタントもプロの匂いがしたし、さまざまなプロの経営者に会えるところに興味を惹かれたからです。今と違って当時はそういう人たちにスポットライトが当てられていませんでしたからね。


■産業再生機構の実像

大朏 それでは産業再生機構のことについてお伺いします。まず、再生機構が設立された背景についてお聞かせください。
冨山 現在、日本経済は二つの問題を抱えています。一つは、財務の問題。バブルが崩壊したことで企業の資産価値は急激に下落しました。その結果、資産に対する貸付債権や金融資産が欠損し、いわゆる不良債権問題が生じました。このような現象は米国や韓国などでも過去に起きており、それらの国々では公的機関の設立により対処してきました。つまり、金融機関が企業に対して持っている不良債権を公的機関が買い取り、当該企業の債務を軽くすることにより事業の再生を図ったわけです。
大朏 日本の再生機構は米国や韓国を参考にして設立されたのですね。ということは、再生機構の目的はやはり不良債権の処理にあるのですか。
冨山 不良債権の処理が再生機構の真の目的ではありません。たしかに産業の再生のためには不良債権の処理が必要になりますが、それだけで再生するというのは幻想です。なぜなら、米国や韓国と異なり、日本ではバブル崩壊後十年以上も経過してから再生機構が設立されたために、バランスシートだけでなく事業本体も痛んでしまったのです。すなわち、過剰債務を抱えているために人材育成や技術開発に先行投資ができない。また、経営陣が痛みを伴う改革を避けてきた結果、不採算部門がいまだに切り捨てられずに残っている。これらにみられる経営の問題、これが第二の問題です。したがって、不良債権を処理するだけでは真の再生にはつながりません。
大朏 財務の問題と経営の問題を両方解決しないことには日本経済は立ち直らないのですね。ところで、企業の再建は既に外資系のファンドを中心に民間企業が手がけていますが、わざわざ政府系の機関を作る必要はあったのでしょうか。
冨山 民間の再生ファンドにはない再生機構の強みは大きく二つあります。一つは、再生機構が間に入ることで複雑な権利関係を解きほぐすことができる点。企業というのはたいてい複数の銀行から融資を受けているもので、当該企業と複数の銀行の間には複雑な権利関係が築かれています。こういったしがらみがあると、再生ファンドやメーンバンクが企業の再建策を考案しても、複雑に入り組んだ債権者の合意を取り付けなければならないためになかなか実行に移せないわけです。再生機構はメーンバンク以外の銀行がもっている貸出債権をすべて買い取るので、迅速に再生に取り掛かれるのです。
大朏 もう一つの強みは何ですか。
冨山 私どもには企業再生の豊富な経験がある点です。こんなことを企業再生のプロである大朏さんに言うのも釈迦に説法で恥ずかしいのですが、企業の再生は経験によるところが大きいんですね。再生機構には企業再生の経験が豊富なプロが集まっていますし、また、普通の民間ファンドなら手を出せないようなリスクの高い案件でも、再生機構には豊富な資金がバックにあるので引き受けることができます。
大朏 世の中には借金を懸命に返済している企業がたくさんあります。にもかかわらず、再生機構は一部の企業だけを救済しており不公平であるとの声をよく耳にします。
冨山 よく誤解されるのですが、再生機構は経営不振企業を救済しているのではありません。私どもの真の目的は、市場の歪みを正し、経営資源の最適配分を図ることにあります。市場メカニズムが正常に機能していれば既に淘汰されているはずの企業や事業部門が、日本においてはさまざまな規制やしがらみに守られて生き残っているのです。そのために人材やお金などの経営資源が新しい産業や有用な事業部門へ流れていかないわけで、そういった規制やしがらみを断ち切ることが経営資源の最適配分につながると私どもは考えております。
大朏 再生機構は市場原理に反することをしている印象があったのですが、実際はそうではなくて、むしろ市場原理を徹底することで経営資源がより効率的に配分されるのを促しているわけですね。
冨山 はい。だから温情による救済を求めている企業はうちを避けていますよ。経済学には、「市場は万能であるから政府は何もしなくてよい」とするフリードマン派と「政府は積極的に市場に介入すべき」とするケインズ派の二つの考え方があります。今政府に求められているのは、市場の歪みを修正する役割です。そして、実際に修正する役割を担うのは再生機構で、修正を終えたら速やかに解散することになっております。したがって、解散する時期が早ければ早いほどいい仕事をしたことになります。


■ カネボウ支援に至った経緯

大朏 今年二月にカネボウが花王への化粧品事業の売却を断念した件で、一部報道では再生機構が介入したために売却が取り止めになったとの指摘がありました。実際のところはどういう経緯があったのですか。
冨山 再生機構が花王のディール(取引)を横取りしたのではありません。カネボウと花王の交渉が破談になった後に、カネボウのメーンバンクである三井住友銀行から再生機構に再建の話が持ち込まれたのです。
大朏 カネボウはなぜ花王への売却を断念したのでしょうか。
冨山 カネボウが売却を断念した理由は二つあります。一つはカネボウの労働組合が化粧品事業の売却に反対したこと。今回のように営業譲渡の形をとった場合は組合の同意が得られないと取引が成立しないんですよ。とりわけカネボウの組合は伝統的に強い影響力をもっていますからね。もう一つは、カネボウがあまりに多くの金融機関から借金をしていたことです。カネボウは化粧品事業を花王に四千億円で売却して、そのお金を借金の返済に充てる計画を立てていたのですが、あちこちからお金を借りていたためにものすごく複雑な利害関係が形成されていました。四千億円の配分をめぐり、貸し手である金融機関の間で揉めごとが起きるのは火を見るより明らかですよね。
大朏 再生機構は化粧品事業に加えてカネボウ本体の支援も決定しました。カネボウ本体を支援する必要はあるのですか。
冨山 競争力のある事業を支援することが再生機構の仕事ですから、当初は化粧品事業だけを支援するつもりでした。しかし、カネボウ本体の財務状況を調べてみると相当に悪い状態で、主要な収益源である化粧品事業を切り離すことにより致命的なダメージを受けることが明らかになりました。もしそれが原因でカネボウ本体が倒れて法的整理に入ると、管財人の判断で営業譲渡が法的に無効にされてしまう可能性があります。それを防ぐためには本体も支援しなければならないと判断しました。


■制度外の金融がベンチャーを育てる

大朏 再生機構の専務に就任されてから、銀行員とともに仕事をする機会が増えたことと思います。銀行といえば「お役所的」な体質の組織と世間一般では言われていますが、この原因はどこにあるのでしょうか。
冨山 銀行は護送船団行政で守られてきましたから、自動車や電機などの製造業とは違って自由競争に晒されてこなかったんですね。大蔵省(現・財務省)の指導のもとで金融業界全体が予定調和的に馴れ合いでやってきたから、個々の銀行やそこで働く銀行員もそういう体質になっています。自分の意志や哲学は二の次で、波風を立てずに組織内をうまく立ち回ることが評価される。それが世間で言われているような役所的な対応につながっているのだと思います。
大朏 銀行はいまだに事業内容ではなく担保に入れる不動産や保証人の有無で融資の判断をしているように思います。これではベンチャー企業にお金が流れていきませんよ。そういう体質はこれから変わっていくと思いますか。
冨山 二つの問題があると思います。一つは、組織の問題。銀行がもっているお金は預金(debt)で成り立っているので、リスクマネー(equity)ではないわけですよ。ですから、リスクが大きい事業には投資できないのです。もう一つは、人の問題。現在、重要なポストに就いている銀行員は、不動産金融全盛の時代を生きてきましたから、その思考枠組みでしか物事を考えられないのです。したがって、事業内容や経営者で融資するか否かを判断することを彼らに求めるのは酷でしょうね。
大朏 銀行が期待できないとなると、ベンチャーはどうやって資金を集めていけばよいのでしょうか。
冨山 これまでの日本では、間接金融が主体であったために直接金融の資本市場が育ちませんでした。しかし、今必要とされているのは、間接金融によって供給される融資資金ではなくて、直接金融によるエクイティ性の資金です。そういう性質の資金は、制度の内にある銀行ではなく、ベンチャーキャピタルやエンジェルのような制度の外にある金融機関が供給していくことになるのではないかと私は見ています。


■事業家は最後まで「ガチンコ」であるべき

大朏 市場原理による競争を通じて成長を目指すべきとする冨山さんの考えは理解できますが、年功序列や終身雇用に守られてきた日本人に冨山さんの考え方は受け入れられますかね。
冨山 私の考え方に反対するのは、予定調和的なシステムのノスタルジーにとりつかれている旧い人たちです。若い頃に高度経済成長を経験した人には、痛みを伴う改革をしなくてもいずれ景気は上向くという意識が根付いているのです。しかし、若い人たちはもはや終身雇用や年功序列型賃金などの予定調和的なシステムを信用していません。彼らが憧れるのは波風を立てずに出世街道を歩んでいるサラリーマンではなく、リスクを負って海外に飛び出していったイチローや松井です。そういう人たちに予定調和的な未来を示しても閉塞感を与えてしまうだけです。
大朏 若者の教育がこれからの日本の命運を左右しそうですね。
冨山 日本の競争力の源泉は人材ですから、人に対する投資は重要です。日本人の大学進学率はトップクラスなのですが、それとは裏腹に若者の失業率は異常に高い数値を示しています。日本において人材開発が行われるのは大学ではなく企業ですから、これは人に対する投資がなされていないことを意味します。
大朏 日本の最大の資源は「人材」ということですね。
冨山 そうですね。日本は伝統的に兵隊が強いんですよ。軍隊でも会社でも。ところが、官僚を見ればわかるように司令官は無能であることが多い。若者をいかに有能な司令官に育て上げていくのかが今後の課題でしょうね。
大朏 最後に次代を担う若いベンチャー企業家に向けてメッセージをお願いします。
冨山 若い人たちにお願いしたいのは、最後まで「ガチンコ」な(失敗を恐れない)姿勢を貫いてほしいということ。事業を始めたときはガチンコな企業家でも、何かの事業でいったん成功すると守りの姿勢に入ってしまうことが多いんですよ。企業家は守りの姿勢に入ったときから堕落が始まります。旧い世代がやってきたような予定調和的な姿勢では、これからの時代は生き抜いていけません。お隣の中国や韓国も既に自由競争のもとで企業の淘汰が進んでいるし、欧米諸国を見渡してみても日本のようにさまざまな規制に守られてぬくぬくしている国はありませんからね。
大朏 二十一世紀の日本の行く末は、シーソーがガチンコのほうに傾くかどうかにかかっているということですね。志を高く持って果敢にリスクをとっていく企業家なら、私もなんとかして助けてあげたいと思います。
冨山 世の中には大朏さんのような人が必ずいますから、ぜひ失敗を恐れず果敢にチャレンジしてほしいですね。ガチンコな企業家が増えていけば、二十一世紀の日本は明るくなると私は確信しています。 
大朏 頼もしいお言葉ですね。どうもありがとうございました。



大朏 直人(おおつき・なおと)氏

1941年東京生まれ。
65年駒沢大学文学部卒業後、ラジオ部品メーカーに入社後独立。
電子機器製造の日本電通を設立、社長に就任。85年自動車部品メーカーの丸八工場(現テクノエイト)の再建を契機に、4社の再建に成功。
93年6月東芝傘下のオンキヨーを個人で買収、1年半で黒字経営に転換した。
03年2月オンキヨーがジャスダックに上場、3度目の株式上場を果たす。
冨山和彦(とやま・かずひこ)氏

1985年東京大学法学部卒。
84年司法試験合格。
85年ボストンコンサルティンググループ入社。
86年コンサルティング会社・コーポレイトディレクション設立に参加。
2001年社長に就任(〜2003年)。
2003年4月産業再生機構専務兼COO(業務執行最高責任者)。10兆円のファンドを有する産業再生機構のキーマンとして活躍中。  

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雑誌「企業家倶楽部」2004/10月号より転載。
本欄は(株)企業家ネットワーク様のご好意により実現したことを記し、謝意を表させていただきます。

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